2016年04月12日

神社 ≠ Shrine

昨年の歳旦奉仕に来ていた巫女の中に、将来外交官になりたいという高校生がおり、いろいろ話をする中で外国人向けに貼ってある簡単な案内文を見て 「Itakiso Jinja Shrine 」って書いてありますけど 「Itakiso Shrine」 でいいんじゃないですか、と言われました。
そこで、Shrine という英単語はそのまま神社を表しているわけではない、そもそも英語圏には神社が存在していなかったから神社を表す単語は存在しておらず、彼らが理解するのに ”神社” に一番近い存在を表す単語として Shrine が採用された、というような話をしました。

この度、国土交通省国土地理院では、増加する外国人旅行者に向けての地図記号や地名等の英語表記についてのガイドラインを作成し、この3月に公表されました。
http://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/kihonjohochousa60019.html

ここでは、外国人向け地図記号15種類と、地名等の英語表記についての変換ルールが記されています。
【外国人向け地図記号】http://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/kihonjohochousa40072.html
【地名等の英語表記規定】http://www.gsi.go.jp/common/000138865.pdf

地名等についてはヘボン式ローマ字表記とし、地形や種別を表す部分については「追加方式」と「置換方式」を使い分けることになりました。
追加方式というのは、日本語の名称の後ろに英語を追加する方式で、富士山であれば、「Fuji-san Mt.」となります。
置換方式というのは、地形や種別を表す部分を対応する英語に変換する方式で、富士山であれば、「Mt. Fuji」となります。
ちなみに、単体の自然地名(山、川、湖、岬など)は原則置換方式を採用しますが、置換方式では日本人が理解できない場合は追加方式を採用することになっています。

具体的に言うと、富士山は Mt. Fuji と表記(置換方式)で行いますが、大山(だいせん)を置換方式で、Mt. Dai と表記した場合、外国人が日本人に大山に行きたいと訪ねても伝わらないことが想定されるからです。
多摩川や隅田川は、Tama River や Sumida River で通じますが、荒川は Ara River では日本人はわかりにくく、Arakawa River とした方が適切だということです。
これらについては、上記にリンクを貼った 地名等の英語表記規定 に細かく記されていますが、わかりやすくしたフローチャートが国土地理院からあわせて公表されています。【フローチャート

さて、前置きが長くなりましたが、この英語表記規定の第27条に
(神社仏閣名の英語表記)
 第27条 神社仏閣名の英語表記は、追加方式によるものとする。「神社」は Shrine と、「仏閣」は Templeと表記するものとする。
と定められており、即ち 伊太祁曽神社 は Itakiso Shrine ではなく、Itakiso-jinja Shrine と表記することになります。
これは、ある意味斯界が 「神社 ≠ Shrine」 という情報発信を地道ながら行ってきた成果ではないかと思うのです。
神社本庁が発行する英文解説書によると、
本来shrineとは成人の遺骨や遺物を安置した聖堂や廟のことを指す
と記されており、厳密には神社とは異なる存在であることが判ります。特に戦歿者を祀る靖國神社や護國神社の場合、Yasukuni Shrine や Gokoku Shrine と表記してしまうと、外国人に誤解を与える可能性が非常に高いと考えられています。
神社界としては、最終的に Jinja という単語で理解してもらえるようになるのが一番良いと考えるわけですが・・・。

また、置換方式では日本人が混乱する場合もあると考えられます。
○○神社という名称の場合は置換方式でも問題がないかもしれませんが、神社の名称は必ずしも最後に「神社」とつくものだけではなく、「神宮」「宮」「大社」「社」などもあります。これらの該当部分を置換するとどうなるでしょうか。

 明治神宮 → (置換方式)Meiji Shrine  (追記方式)Meiji-jingu Shrine
 出雲大社 → (置換方式)Izumo Shrine  (追記方式)Izumo-taisha Shrine
 太宰府天満宮 → (置換方式)Dazaifu-tenman Shrine  (追記方式)Dazaifu-tenmangu Shrine

どうですか。まぁ、これくらいならわからなくもないかもしれませんね。
では、春日大社と春日神社ではどうでしょうか。
春日大社 → (置換方式)Kasuga Shrine  (追記方式)Kasuga-taisha Shrine
春日神社 → (置換方式)kasuga Shrine  (追記方式)kasuga-jinja Shrine
置換方式ではおなじになってしまいますが、追記方式では別の神社と判りますね。
同じような例はたくさんあると思います。神明神社と神明宮、八幡神社と八幡宮などなど。

このようにつらつら考えると、果たして神宮はどのような表記になるのでしょうか。
神宮というのは、一般に言う 「伊勢神宮」 です。
「伊勢神宮」 と一般には呼びますが、「神宮」 が正式な名称です。したがって、私たちが「神宮」と言えば伊勢を指すわけですが、一般の方にお話する際にはわかりやすいように 「伊勢の神宮」 と言ったり、また一般的に「伊勢神宮」と表現する場合もあります。

今回の国土地理院の取り決めは外国人観光者向けのものですから、 Ise-jingu Shrine で構いませんが、正式な名称を置換方式で表記していたならば Shrine となっていたことになりますね。
追記方式であれば、Jingu Shrine。こちらならまだ判りますが、流石に置換方式ではなんだかわからない場合も多いでしょう。

神道を置き換える英単語は存在しないので、Shinto と表現されますから、神社も Shrine ではなく Jinja と表記して通用する日が来れば良いと思うのですが、Jinja と Jingu と Gu などが同じという認識をしてもらうとなるとなかなか大変ですね。

(伊勢)神宮は Ise-jingu Jinja、出雲大社は Izumo-taisha Jinja、天満宮は Tenman-gu Jinja となってしまいます。